立ち上がった瞬間、心臓がドキドキして頭がくらくらする。しばらく立ち続けているだけで全身から力が抜けてしまい、横になるとすっと楽になる。病院で心電図や血圧を調べても「特に異常はありません」と言われ、それでも毎日のつらさだけが続いている——そんな経験をしている方は、決して少なくありません。
こうした症状は、POTS(ポッツ/体位性頻脈症候群:Postural Orthostatic Tachycardia Syndrome)と呼ばれる自律神経の機能不全によって起きることがあります。POTSは「立ち上がると脈拍が急激に増える」という特徴的なパターンを持ち、近年はコロナ後遺症の一部としても広く知られるようになりました。通常の血圧測定では異常が出にくく、「気のせい」「自律神経失調症」で片付けられてしまうことも多い状態です。
京都・出町柳では、大学や研究機関でデスクワークを続ける方や学生の方からも、「長時間座って作業した後に立ち上がるとふらつく」「電車で立っているだけで気分が悪くなる」といった声が少なくありません。このページでは、POTSのしくみと、毎日の生活で取り組めるセルフケアを、理学療法士の視点からやさしく解説します。
「立つだけでつらい」——POTSが引き起こす症状の全体像
POTSが引き起こす症状は多岐にわたります。最も特徴的なのは、座った状態や横になった状態から立ち上がると現れる心拍数の急増です。通常10分以内に30拍以上増加し(15歳未満の場合は40拍以上)、これに伴ってめまいや頭のくらくら感、強い倦怠感が生じます。「ドキドキして胸が苦しい」「立っているのがやっと」という感覚は、多くのPOTS患者さんが共通して経験するものです。
同時に多くの方が訴えるのが「頭のもや」と呼ばれるブレインフォグです。考えがまとまらない、言葉がとっさに出てこない、集中力が続かない、という症状は、立ち上がったときに脳への血流が一時的に不足することで起きると考えられています。また、立っているときに手足がじんじんしたり、汗をかきやすくなったり、吐き気を感じることもあります。
こうした症状は横になると軽快することが多いため、周囲からは「怠けている」「気持ちの問題だ」と誤解されやすい状態です。実際、POTSの確定診断がつくまでに数年かかるという報告もあり、「病院では異常がないと言われたけれど、体がつらい」という状態が長期間続くことが少なくありません。症状は一日の中でも変動し、朝や食後、長時間立位を続けた後に悪化しやすい傾向があります。まず「あなたのせいではない」ということをお伝えしたいです。
POTSの主な症状 立ち上がると現れやすく、横になると軽快しやすい 動悸・脈が急に速くなる(10分以内に30拍以上増加) 立ちくらみ・めまい・頭のくらくら感 強い倦怠感・体に力が入らない感覚 頭のもや(ブレインフォグ)・集中力の低下 立っているだけで息苦しい・吐き気・手足のしびれ 横になると症状が和らぐ(臥位での改善) 図1:POTSの主な症状。立位で現れ、臥位で軽快するパターンが特徴。
そもそもPOTS(体位性頻脈症候群)とは——立つと脈が急増する自律神経のしくみ
人が座った状態から立ち上がると、重力の影響で血液は下半身(脚・骨盤)に集まりやすくなります。健康な状態では、自律神経(とくに交感神経)がすばやく反応し、下半身の血管を収縮させて血液を心臓・脳に押し戻します。この反応により、心拍数は少し増える程度で、めまいや動悸は起きません。立ち上がっても普通に動けるのは、この自律神経の素早い調整があるからです。
ところがPOTSでは、この自律神経の「血管収縮反応」がうまく機能しません。立ち上がった後、下半身に血液がたまったまま戻ってこないため、心臓は少なくなった心拍出量を補おうと、脈拍を急激に上げます。この代償反応が「ドキドキ」「息苦しさ」「頭がくらくらする」といった症状として現れます。体が一生懸命働いているがゆえに起きる症状であり、決して「なまけ」や「気の持ちよう」の問題ではありません。
POTSの診断基準は、「立位または傾斜台での起立後10分以内に心拍数が30拍以上増加すること(15歳未満は40拍以上)」かつ「明確な血圧低下(起立性低血圧)がないこと」とされています。起立性低血圧(血圧が大きく下がるタイプ)とは異なり、血圧は保たれているにもかかわらず脈拍だけが急増する点が特徴です。そのため通常の血圧測定だけでは見落とされやすく、脈拍を丁寧に測定しないと気づかれないことがあります。POTSは10〜40代、特に女性に多いとされていますが、コロナ後遺症の影響で年齢・性別を問わず増加しています。
起立したときの体の反応 正常な反応 ① 立ち上がる(血液が下半身へ) ② 自律神経が血管を素早く収縮 ③ 血液が心臓・脳に戻る ✓ めまい・動悸は起きない POTSの反応 ① 立ち上がる(血液が下半身へ) ② 血管収縮がうまくできない ③ 血液が下半身にたまったまま 脈が急増・動悸・めまいが発生 図2:正常な起立反応(左)とPOTS(右)の比較。自律神経の血管反応がうまく機能しないことで脈が急増する。
原因は「心臓」だけではない——自律神経・血液量・神経・感染後のつながり
POTSはひとつの原因で起きるわけではなく、複数のメカニズムが組み合わさっているケースがほとんどです。「なぜ私がPOTSに?」と感じる方も多いですが、原因が複雑なだけに、一般的な検査では見つかりにくいことも多いのです。
自律神経の調節機能の問題 :交感神経と副交感神経のバランスが崩れ、立位での血管収縮反応が弱くなります。これはウイルス感染後(コロナを含む)、長期の安静・臥床(寝たきり状態)、強いストレス、外傷後などに引き起こされることがあります。特に近年はコロナウイルス感染後に自律神経障害が起きるケースが増えており、社会的な関心が高まっています。
血液量の不足(相対的な循環血液量の低下) :POTSの方の多くは、体の大きさに対して血液量が少ない状態にあることが知られています。血液量が少ないと、立ち上がったときに心臓に戻る血液量がさらに減り、脈を増やして補おうとする代償反応が強くなります。のどが渇きにくい体質の方や、食事量が少ない時期が続いた後などに起きやすい傾向があります。
末梢血管の緊張低下 :脚や骨盤まわりの血管が適切に収縮できないため、血液が下半身に「ためこまれ」やすくなります。これには末梢の神経支配の問題(局所的な自律神経障害)が関わっていることもあります。脚が赤紫色になりやすい、脚に網状の模様が出やすいという方はこのタイプの可能性があります。
長期安静・体力の低下 :入院や療養、あるいはコロナ禍のリモートワーク・自宅待機が長く続くと、心臓・血管の調節能力が低下しPOTS様の症状が出やすくなります。出町柳周辺の大学・研究機関でデスクワーク中心の生活が続いた方にも、こうした体力低下からくる症状が見られることがあります。
POTSの背景にある主な要因 複数の要因が重なることが多い 自律神経の調節機能の問題 交感神経の血管収縮反応が弱い 血液量の不足 体格に対して循環血液量が少ない 末梢血管の緊張低下 脚・骨盤の血管が収縮しにくい ウイルス感染後(コロナ等) 感染後の自律神経障害・免疫異常 長期安静・体力低下 臥床・活動量減少で調節能力が低下 図3:POTSの背景にある主な要因。自律神経・血液量・血管・感染後・体力低下が複雑に絡み合う。
研究でわかっていること——コロナ後遺症との強い関連と非薬物療法の可能性
近年、POTSに関する研究が急速に進んでいます。特に注目されているのは、コロナ後遺症(Long COVID)との関連です。
Debらが2023年に発表した研究[1] では、Long COVID(新型コロナ感染から4週間以上症状が続く患者)の約30〜40%に自律神経障害が確認され、そのうち有意な割合がPOTSの基準を満たすと報告されています。コロナ前のPOTSの有病率が推定0.1〜1%程度であったことと比較すると、これは非常に高い数字です。感染後の自律神経への影響がいかに大きく、かつ見落とされやすいかを示す重要な知見といえます。
Iqbalらの系統的レビュー[2] では、POTSに対する支持的なセルフマネジメント(自己管理)の効果がまとめられています。水分・塩分補給、漸進的な運動療法(グレーデッド・エクササイズ)、圧迫療法(弾性ストッキング)などの非薬物的アプローチが、症状の軽減と生活の質の向上に有効であることが示されています。特に「横になった姿勢から始める低負荷の運動」は、体に大きな負担をかけずに機能回復を目指すうえで有効な方法として評価されています。
一方で、「動いたほうがいい」「休んだほうがいい」という単純な答えはなく、症状の重さと日々の変動に合わせた個別の対応が重要です。体調が悪い日に無理に動くと症状が著しく悪化することもあるため、専門家と相談しながら取り組むことが推奨されています。こうした研究は、POTSが「気のせい」ではなく、神経・循環・免疫の複合的な問題であることを明確に示しています。
研究でわかっていること Long COVIDと自律神経障害 ~40% のLong COVID患者に 自律神経障害が確認された Deb et al., 2023 コロナ前の有病率は推定0.1〜1% 有効な非薬物的アプローチ ✓ 水分・塩分の積極的な補給 ✓ 漸進的な運動療法 ✓ 弾性ストッキングの着用 ✓ 姿勢の段階的なトレーニング ✓ 横になった状態での軽い運動 Iqbal et al., 系統的レビュー 図4:Long COVID患者における自律神経障害の割合(左)と有効な非薬物療法のまとめ(右)。
なぜ症状が繰り返す・長引くのか——「動けない→弱る→さらに動けない」の悪循環
POTSで厄介なのは、症状が長引きやすい悪循環の構造にあります。立ち上がるたびに動悸やめまいが起きると、「また症状が出るかもしれない」という不安から、立つこと・歩くことを無意識に避けるようになります。これは症状を一時的に和らげる合理的な反応ではあるのですが、長い目で見ると回復の妨げになることがあります。
活動量が減ると「廃用」と呼ばれる身体機能の低下が進みます。筋力が落ち、心臓・血管の調節能力がさらに低下することで、少し動くだけで脈が上がりやすくなり、症状がより出やすくなってしまいます。「活動を避ける→体力・血管機能が低下する→症状が悪化する→さらに避ける」という悪循環が形成されます。
さらに、この悪循環に「睡眠の乱れ」と「精神的な疲弊」が加わることで、症状はより複雑になります。慢性的な不調と日常生活の制限は、不安・気力の低下を伴いやすく、自律神経のバランスをさらに崩す要因になります。「どうせ良くならない」「活動しても悪化するだけ」という気持ちが強くなると、回復への取り組みを始めにくくなります。これもまた、体と心の悪循環です。
こうした悪循環を断ち切るためには、「完全休養」でも「無理な活動」でもなく、症状の状態に合わせた適切なペースで少しずつ体を慣らす「ペーシング(活動の調整)」が重要になります。焦らず、急がず、自分の体の反応を丁寧に確認しながら進む姿勢が、長期的な回復につながります。
POTSによる悪循環 立つと動悸・めまいが出る 症状が怖くて立つことを避ける 筋力・血管調節が さらに低下する 症状がさらに悪化する 少し動くだけで脈が上がる 活動量が減り 廃用(体力低下)が進む 図5:POTSによる悪循環のループ。症状を避けることで廃用が進み、さらに症状が悪化するパターン。
自宅でできるセルフケア——3つのステップで体を少しずつ慣らす
POTSのセルフケアで大切なのは「いきなり立って元通りに動く」ことではなく、姿勢と負荷を段階的に高める ことです。いきなり通常の生活に戻ろうとすると症状が悪化しやすいため、3つのステップで少しずつ体を慣らしていくことが研究でも勧められています。
ステップ1:水分・塩分を意識して補給する 1日2〜3リットルの水分補給を目標にしましょう。塩分については、医師の指示のもとで増量が勧められることがあります(高血圧や心疾患がある方は必ず医師に相談を)。水分補給は血液量を保つ最も基本的な対策です。起床直後、食事前後など、こまめに補給する習慣をつけましょう。のどが渇く前に飲むことがポイントです。
ステップ2:横になった状態から始める姿勢・運動トレーニング 仰向けで行える軽い運動(足首を上下に動かす、仰臥位での脚の曲げ伸ばし)から始め、徐々に座位・立位の時間を延ばします。「壁に寄りかかって立つ時間を少しずつ伸ばす」というティルトトレーニングは、体が立位に慣れていく助けになります。弾性ストッキングや腹部の圧迫帯を使うことで、下半身への血液の「たまり」を軽減する効果が期待できます。
ステップ3:重力の影響が少ない有酸素運動から始める プールでの水中歩行や、仰臥位・リクライニング型の自転車エルゴメーターなど、重力の影響が少ない姿勢での有酸素運動は、症状を悪化させずに体力を回復しやすい方法です。無理なく続けられる範囲で週2〜3回を目標に始め、翌日の体調をみながら量を調整してください。「翌日に症状が著しく悪化するなら量が多すぎる」という目安で調節しましょう。
セルフケアのポイント:翌日の体調で量を判断する 運動・活動の後、翌日に動悸・倦怠感が著しく悪化する場合は「やりすぎ」のサインです。「少し疲れたけれど翌日は普通に過ごせた」という量が、今のあなたに合った適切な負荷の目安です。急がず、体の反応を正直に見ながら進みましょう。
自宅でできるPOTSセルフケア・3ステップ 1 水分・塩分補給 1日2〜3L を目標に こまめに水分補給 血液量を保つ 最初の一歩 2 姿勢トレーニング 仰向け→座位→立位 段階的に慣らす 弾性ストッキング 併用も効果的 3 重力の少ない有酸素 水中ウォーキング 仰向けの自転車運動 翌日の体調で 量を調整する 図6:POTSセルフケア3ステップ。水分・塩分補給→姿勢トレーニング→重力の少ない有酸素の順に取り組む。
こんなときは医療機関へ——見逃してはいけないサイン
POTSの症状は自律神経の問題であることが多いですが、以下のような症状がある場合は、より重篤な疾患が隠れている可能性があります。まず専門の医療機関(循環器内科・神経内科・自律神経専門外来)への受診を優先してください。セルフケアの前に、危険なサインがないかを確認することが大切です。
失神(意識を失って倒れる)が繰り返し起きている
安静時にも動悸・胸の痛みや締め付け感が続いている
血圧が起立時に大きく下がる(収縮期血圧が20mmHg以上の低下)
手足の脱力・しびれが急に悪化した、または片側だけに現れた
体重が急に減った・原因不明の発熱が続いている
症状が急速に悪化している、または歩けないほどのふらつきがある
安静時の心拍数が常に100拍以上(頻脈)が続いている
これらのサインがある場合は、まず内科・循環器内科を受診し、心疾患・貧血・甲状腺疾患・副腎疾患など他の原因を除外することが最優先です。「異常なし」と言われてもつらい症状が続く場合は、自律神経専門外来や神経内科への相談が助けになることもあります。POTSの確定診断は、傾斜台試験(チルトテーブルテスト)などの専門的な検査で行われます。診断がつかないまま悩んでいる場合は、「チルトテーブル検査をしてほしい」と具体的に伝えることで前に進める場合があります。
それでも変わらないときは——アンリミテッドヒール京都での向き合い方
「病院で異常なしと言われたが、毎日がつらい」「薬を飲んでいるが生活の質がなかなか上がらない」という方が、京都・出町柳のアンリミテッドヒール京都に相談に来られることがあります。
当院では、POTSに代表される自律神経の不調に対し、院長・日下部望(理学療法士)が体の状態を丁寧に評価したうえで、筋膜・神経・姿勢の観点から施術の方針を検討します。「整体でPOTSを治す」という意味ではありません。長期間の不調による筋膜の緊張・姿勢の偏り・呼吸の浅さなどは、自律神経の調節に影響する可能性があると考えられています。体の過緊張を整え、自己回復力が発揮されやすい状態へのサポートをすることが、施術の考え方です。
効果には個人差が大きく、すべての方に同じ結果が出るわけではありません。医療機関での治療と並行しながら、「次の一歩を一緒に考えたい」という方は、ぜひ一度ご相談ください。出町柳駅から徒歩1分、院長が直接対応します。
まとめ
「立つだけでつらい」「病院で異常なしと言われた」という不調は、POTS(体位性頻脈症候群)という自律神経の機能不全によるものかもしれません。あなたのせいではなく、体のしくみの問題です。
POTSは、立ち上がると脈拍が急増する自律神経の問題で、コロナ後遺症との関連が研究で明らかにされています。通常の検査では見落とされやすいため、気になる方は傾斜台試験(チルトテーブルテスト)が行える医療機関への相談を検討しましょう
悪循環を断ち切るためには、完全に休むでも無理に動くでもなく、症状の変動に合わせた「ペーシング(活動の調整)」が重要です
自宅でのセルフケア(水分・塩分補給、姿勢の段階的なトレーニング、重力の少ない有酸素運動)から少しずつ始め、翌日の体調を見ながら無理のない範囲で継続することが、長期的な回復の鍵になります
失神・胸痛・急速な悪化などのサインがある場合は、まず医療機関を受診してください。セルフケアだけでなかなか変わらないと感じるときは、整体を含めた専門家への相談も選択肢の一つです。
参考文献
Deb A, et al. "High Incidence of Autonomic Dysfunction and Postural Orthostatic Tachycardia Syndrome in Patients with Long COVID: Implications for Management and Health Care Planning." Heart Rhythm. 2023. PMID: 37391116. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37391116/
Iqbal FM, et al. "Supportive self-management in postural orthostatic tachycardia syndrome (POTS): A systematic review." 2025. PMID: 41110327. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41110327/
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療を目的としたものではありません。効果には個人差があり、特定の治療法の効果を保証するものではありません。症状が続く・悪化する場合は医療機関にご相談ください。