慢性的な痛みが続いていると、「もう治らないのではないか」という不安が頭から離れなくなることがあります。病院でMRIや血液検査を受けても「異常なし」と言われ、それでも体はつらい——そんな経験をお持ちの方は、決して少なくありません。
出町柳の整体院に来院される方の中にも、「痛みが出たきっかけはわかっているのに、なぜか同じ場所がずっと痛い」「少し動いただけで強い痛みが出る」「痛む場所が日によって変わる」という悩みを抱えた方が多くいらっしゃいます。
こうした「画像に写らない慢性的な痛み」の背景には、「中枢感作(ちゅうすうかんさ)」 という脳と脊髄の変化が関係していることが、近年の痛み研究で明らかになっています。難しい言葉に聞こえますが、一言で言えば「痛みを伝える神経のボリュームが、ずっと大きく固定されてしまった状態」です。
この記事では、中枢感作とは何か、なぜ慢性的な痛みが「治りにくい」のか、そして日常生活で少しずつ取り組める向き合い方を、やさしくお伝えします。「自分の痛みはなぜ続くのだろう」と疑問を持っている方に、ぜひ読んでいただければと思います。あなたの痛みには、きちんとした理由があります。それを知ることが、改善への大きな一歩になります。
「治っていいはずなのに、まだ痛い」という経験
骨折が治癒し、炎症が引いた後も、なぜか痛みが残ることがあります。あるいは、同じ姿勢や動作で何度もぎっくり腰を繰り返す、少し長く歩いただけで脚全体がしびれてくる、天気やストレスによって痛みの強さが変わる——こうした体験をお持ちではないでしょうか。
これらはすべて、「中枢感作がかかわっている可能性のあるサイン」です。慢性疼痛(まんせいとうつう)は一般に「3か月以上続く痛み」と定義され、日本では約2,300万人が慢性疼痛を抱えているとも言われています。その多くで「検査では異常が見つからない」という状況が続きます。中枢感作は、そうした難治性の慢性疼痛の主要なメカニズムの一つとして注目されています。
「なぜ痛みが続くのかわからない」という状況は、不安を生み、さらに痛みを悪化させます。まずは自分の状態を知ることが、この悪循環を断ち切る第一歩になります。
中枢感作に気づくサイン
1
軽く触れるだけ・温度変化だけで強い痛みを感じる
2
痛む場所が広がってきた、または移動する
3
疲れているとき・天気が悪いとき・ストレス時に痛みが増す
4
睡眠が浅い・夜中に目が覚める・朝に体がだるい
5
集中力が落ちた・気分が沈みがち・何もする気が起きない
6
「どこが痛いか」「いつ痛いか」がうまく説明できない
図1:中枢感作が関係しているときに見られる主なサイン
中枢感作とは何か——脳と脊髄が「痛みに慣れすぎる」しくみ
「感作(かんさ)」という言葉は、「ある刺激に対して敏感になること」を意味します。私たちの体には、傷ついた部分を守るために「末梢感作(まっしょうかんさ)」という機能があります。たとえば、日焼けした肌は少し触れただけでも痛みます。この反応は自然なものです。
ところが「中枢感作」は、それとはまた別のしくみです。脊髄や脳——つまり中枢神経系——が、実際の組織ダメージとは切り離された形で、痛みを感じやすい状態に変化してしまうことを指します。
わかりやすく言えば、「痛みを伝えるラジオのボリュームが、ずっと大音量に固定されてしまった状態」 です。通常は、けがが治るとボリュームは自然と下がります。ところが長期間にわたって強い痛みが続いたり、ストレスや睡眠不足が重なったりすると、この音量調節がうまく働かなくなります。その結果、普通なら痛いと感じないような軽い刺激も「強い痛み」として脳に伝わってしまいます。
この状態を引き起こす鍵となるのが、脊髄後角にある「NMDA受容体」という痛みの増幅スイッチです。このスイッチが過剰に活性化されると、痛みの信号が増幅されて脳へ伝わります。さらに、脳から脊髄に向けて「痛みを抑えるブレーキ」をかける「下行性抑制系」が弱まることも、慢性痛の持続に大きく関与します。このブレーキが弱まると、わずかな信号でも強い痛みとして意識に上がるようになります。
通常の痛み vs 中枢感作の状態
通常の痛み
刺激に見合った痛みを感じる
組織が治ると痛みが引く
ブレーキ(抑制系)が正常に機能
→ 急性期に収束しやすい
中枢感作の状態
軽い刺激でも強い痛みを感じる
組織が治っても痛みが続く
ブレーキが弱まり信号が増幅される
→ 慢性化・難治化しやすい
図2:通常の痛みと中枢感作が起きている状態の違い
原因は「痛む場所」だけにあるわけではない
中枢感作が起きている場合、痛みの本当の問題は「体のどこかが壊れていること」ではなく、「痛みを処理する神経システム全体が過敏化していること」です。そのため、痛む場所だけにアプローチしても、根本的な改善が難しいことがあります。
たとえば、慢性腰痛の方が腰だけを治療しても痛みが戻りやすいことや、ヘルニアの手術後も似たような痛みが続くケースの背景に、中枢感作が関与していることが指摘されています。「なおったはずなのにまた痛い」という経験の多くは、神経系全体の状態を見直すことで糸口が見えてくることがあります。
中枢感作を維持・悪化させる要因には、次の4つが代表的です。①睡眠不足・睡眠の質の低下 は、脳の痛み抑制機能(下行性抑制系)を弱め、痛みを感じやすくします。②精神的ストレスと不安 は、ストレスホルモン(コルチゾール)の過剰分泌を通じて神経系の炎症を促進し、中枢感作を維持する一因になります。痛みを恐れる気持ち自体が痛みの神経回路を強化してしまうことも報告されています。③動かない・避けすぎる ことで、筋肉や筋膜の柔軟性が低下し、さらに痛みが出やすくなります。「動くと痛い」という経験が積み重なると、脳が「動作=危険」と学習してしまいます。④腸内環境の乱れ・栄養状態 も、全身の神経炎症と関係することが示されています。
出町柳のような学術研究者や長時間デスクワークをされる方に多い「慢性的な体のこわばりと痛み」の背景には、こうした複数の要因が複雑に絡み合っていることがあります。
中枢感作を維持・悪化させる主な要因
① 睡眠不足・睡眠の質の低下
脳の下行性抑制系が弱まり痛みが増幅
慢性的な睡眠不足は特に影響が大きい
② 精神的ストレスと不安
コルチゾール過剰分泌が神経炎症を促進
「痛みへの恐怖」が神経回路を強化する
③ 動かない・避けすぎる
筋膜・筋肉が硬くなり痛みが出やすくなる
「動作=危険」と脳が学習してしまう
④ 腸内環境・栄養状態
腸内の乱れが全身の神経炎症に関連
栄養バランスが神経機能に影響する
図3:中枢感作を維持・悪化させる4つの主な要因
研究でわかってきたこと——痛みは「体にも脳にも」ある
中枢感作に関する研究は、2010年代以降に大きく進展しました。ハーバード大学医学部のクリフォード・ウルフ(Clifford J. Woolf)博士は2011年、権威ある痛み医学誌『Pain』に発表した論文において、中枢感作が線維筋痛症・慢性腰痛・過敏性腸症候群・慢性緊張型頭痛・顎関節症など、多くの「原因不明」とされてきた慢性疾患の主要なメカニズムであると示しました [1] 。この論文は、慢性疼痛の研究の中でも特に重要な位置を占めており、現在も世界中の痛み研究・リハビリテーション領域で広く引用されています。
また、ニールス(Jo Nijs)らの研究グループは2011年に発表した論文で、「中枢感作による慢性疼痛」への治療選択肢を体系的に整理しています [2] 。この研究では、薬物療法(SNRI・NMDA受容体拮抗薬など)に加えて、痛みの教育(Pain Neuroscience Education) ・運動療法・認知行動療法・徒手療法が、いずれも中枢感作の改善に効果をもつ可能性があることが示されました。
特に注目されているのは「痛みの教育」です。「自分の痛みがなぜ起きているのかを理解すること」で、脳が痛みを「危険なシグナル」として過剰に反応することを減らせるという考え方です。研究では、痛みの教育を受けたグループが受けていないグループと比べて、痛みの強さや日常生活への支障が有意に改善することが示されています。「知ること」が治療の一部になるのです。
研究が示す治療アプローチ(Nijs et al. 2011)
効果が示されているアプローチ
✓ 痛みの教育(Pain Neuroscience Education)
✓ 段階的な運動療法
✓ 認知行動療法(CBT)
✓ 徒手療法(マニュアルセラピー)
✓ SNRI・NMDA受容体拮抗薬(医師処方)
※ 単独よりも組み合わせがより効果的
改善しにくいパターン
✗ 痛む場所だけへの局所治療を続ける
✗ 安静だけで過ごす(動かない)
✗ 「痛みは悪」と信じ恐怖を持ち続ける
✗ 睡眠・ストレスを放置する
✗ 一つの治療法だけに頼る
※ 複合的な視点が重要とされている
図4:中枢感作への治療アプローチ——効果が示されているものと改善しにくいパターン(Nijs et al. 2011をもとに整理)
なぜ慢性的な痛みは「繰り返す」のか——悪循環のしくみ
中枢感作があると、痛みは悪循環に入りやすくなります。「痛い」→「動けない・眠れない・気分が沈む」→「ストレスや疲労が蓄積する」→「神経がさらに過敏になる」→「また痛い」——この循環が続くことで、痛みはますます治りにくくなっていきます。
特に4つのサイクルが重なると慢性化が進みやすくなります。まず「痛みと睡眠のサイクル」 では、痛みで眠れない夜が続くと睡眠の質が落ち、脳の痛み抑制機能が低下して翌日はさらに痛みを感じやすくなります。次に「痛みと回避行動のサイクル」 では、「また痛くなりそう」という予期不安から動作を避けるようになります。すると体が硬くなり筋力が落ちて、少し動いただけで実際に痛みが出るようになり、さらに回避が強まります。
「痛みとストレスのサイクル」 では、痛みはストレスを生み、ストレスは痛みを増幅します。「治るかどうか不安」「仕事が心配」という気持ちが続くと、交感神経の緊張が高まり、全身の筋肉や筋膜がこわばりやすくなります。そして「痛みと社会的孤立のサイクル」 では、痛みで外出や人付き合いが減ると精神的な支えが少なくなり、気持ちがふさぎやすくなります。その結果、痛みに対する感受性がさらに高まります。
この悪循環を「どこか一点で断ち切ること」が、中枢感作を改善するうえで非常に重要です。睡眠でも、動き方でも、気持ちの持ち方でも——入り口はどこからでも構いません。
慢性的な痛みの悪循環ループ
① 痛みが続く
② 動けない
眠れない
③ ストレス・疲労が増す
④ 神経が
さらに過敏化
どのサイクルからでも断ち切ることが改善の入り口になります
図5:慢性的な痛みが長引く悪循環ループ——4つのサイクルが互いを強め合う
自宅でできること——痛みの悪循環を少しずつほぐす3ステップ
中枢感作は神経系の「過敏化」であるため、薬や施術だけで解決することは難しく、日常生活全体の見直しが必要です。「すぐに完全に痛みをなくす」ことを目標にするのではなく、「少しずつ痛みと共存しながら生活の幅を広げていく」 という視点が助けになります。
ステップ1:「痛みを知る」(知識が不安を減らす) 。自分の痛みのしくみを理解することが第一歩です。「骨が壊れているから痛い」ではなく「神経が過敏になっているから痛い」と理解できると、恐怖心が和らぎます。信頼できる医療者から「痛みの科学(Pain Neuroscience Education)」を学ぶことが勧められています。「知る」こと自体が、脳の痛み信号を落ち着かせる効果をもちます。
ステップ2:「睡眠と呼吸を整える」 。睡眠は脳の痛み抑制系を回復させる最もシンプルな方法です。就寝前のスマートフォン使用を控え、室温を18〜20℃程度に保ち、毎日同じ時間に起きることから始めましょう。また「4秒吸って8秒吐く」腹式呼吸を1日3回・各3分行うと、副交感神経が活性化し、全身の緊張が和らぎます。出町柳周辺を朝の短い散歩コースにして、朝日を浴びることも体内時計の調整に役立ちます。
ステップ3:「許容範囲内で少し動かす」 。「痛くならない範囲でほんの少し動く」を繰り返すことが大切です。痛みが10点満点で5点以内であれば、短い散歩や軽い動きを継続することで、脳は「動いても大丈夫」と学習し、過剰な警戒が少しずつ和らいでいきます。「やり過ぎず・避けすぎず」のバランスが重要です。
中枢感作への3ステップ・セルフケア
1
痛みを知る
しくみを理解して
恐怖心を和らげる
Pain Neuroscience Education
2
睡眠・呼吸を整える
規則正しい就寝・起床
腹式呼吸4秒吸-8秒吐
副交感神経を活性化する
3
許容範囲内で動く
痛みが5点以内なら
短い散歩・軽い動きを継続
やり過ぎず・避けすぎず
図6:中枢感作のセルフケア3ステップ——「知る→整える→動く」の順で取り組む
セルフケアの要点 :「痛みを完全に消す」より「痛みと折り合いをつけながら生活の幅を広げる」を目標にすることが、中枢感作の改善に近道です。まずは睡眠・呼吸・少しの動きの3つから始めましょう。
こんなときは医療機関へ——見逃してはいけないサイン
慢性的な痛みの多くは中枢感作が背景にありますが、中には緊急の対処が必要な状態が隠れていることがあります。以下のサインがある場合は、速やかに整形外科・神経内科・内科などを受診してください。自己判断で「中枢感作だから大丈夫」とは絶対にしないでください。
安静にしていても強い痛みが続き、日に日に悪化する
発熱・体重減少・夜間の大量発汗を伴う痛み
排尿・排便の障害(尿漏れ・便秘・突然の失禁)が出てきた
手足の力が急に入りにくくなった(麻痺・脱力感)
胸痛・呼吸困難を伴う背中・腰の痛み
外傷(事故・転倒)の後から急に症状が出た
がんの治療歴がある方に生じた新しい痛み
慢性疼痛と診断されたとしても、定期的な医療機関での経過確認は欠かせません。セルフケアや整体などは、あくまで医療と並行して行うものです。「異常なし」と言われていても、症状が急変したときは迷わず受診することが大切です。
それでも変わらないときは——アンリミテッドヒール京都の考え方
「病院でも異常なしと言われた」「薬を飲んでも痛みが変わらない」「何年も同じ痛みと向き合ってきた」——そのような方が、京都・出町柳駅徒歩1分にあるアンリミテッドヒール京都に来院されることがあります。
当院を主宰する院長・日下部望(理学療法士)は、難治性の慢性疼痛に対して「痛む場所だけを治療するのではなく、体全体のつながりを見て、痛みを維持している要因を整理すること」を大切にしています。特に、筋膜(fascia) という全身をつなぐ組織の状態に注目した施術を行っています。筋膜は痛みや緊張のパターンを「記憶」しやすく、中枢感作が起きている状態では、筋膜の硬さや緊張が慢性痛の持続を後押しすることがあります。
また、周波数を用いたアプローチによって筋膜の緊張を穏やかに和らげながら、過敏化した神経系に対して穏やかな刺激を与えることを目指しています。効果には個人差があり、すべての方に同じ結果が出るとは言えません。しかしながら、「なぜ痛みが続いているのか」という視点で体の状態を整理し、適切な医療機関との連携を含めたアドバイスをお伝えすることができます。一人で抱え込まず、まずはご相談ください。
まとめ
慢性的な痛みが続く場合、その背景には「中枢感作」という脳・脊髄レベルの変化が関係していることがあります。痛みは「壊れた場所からのシグナル」だけでなく、「神経系の過敏化」によっても生じるという理解が、難治性の痛みへの第一歩になります。検査で異常なしと言われても、あなたの痛みは「気のせい」ではありません。それは神経系が発している本物のシグナルです。
中枢感作とは脳・脊髄が痛みに過敏になった状態で、軽い刺激でも強い痛みを感じやすくなる神経系の変化である
睡眠・ストレス・回避行動・孤立が悪循環を作り、痛みを慢性化させるため、一点から断ち切る視点が重要
「痛みを知る・睡眠と呼吸を整える・少しずつ動く」の3ステップが、中枢感作のセルフケアの基本になる
痛みが3か月以上続いている、または検査で異常なしと言われても症状が改善しない場合は、ぜひ一度当院(京都市上京区・出町柳駅徒歩1分)へのご相談もご検討ください。一緒に、あなたの痛みと向き合う道筋を考えます。
参考文献
Woolf CJ. Central sensitization: implications for the diagnosis and treatment of pain. Pain. 2011;152(3 Suppl):S2-S15. PMID: 20961685. PubMed
Nijs J, Meeus M, Van Oosterwijck J, et al. Treatment of central sensitization in patients with 'unexplained' chronic pain: what options do we have? Expert Opin Pharmacother. 2011;12(7):1087-1098. PMID: 21254866. PubMed
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療を目的としたものではありません。効果には個人差があり、特定の治療法の効果を保証するものではありません。症状が続く・悪化する場合は医療機関にご相談ください。