「在宅勤務になってから、腰がずっとだるい」「肩が石のように固まって、夜になっても抜けない」——テレワーク導入後にこんな悩みを持ち始めた人が、京都でも出町柳近辺でも増えています。通勤という「強制的な歩き」がなくなり、気づけば8時間以上ダイニングチェアに座ったまま、という日が続いていませんか?オフィスより「楽そう」なのに、なぜ体はこんなに悲鳴を上げるのでしょう。原因は「姿勢が悪いから」という一言では片付けられません。この記事では、テレワークが腰痛・肩こりを悪化させる4つのしくみを整理し、忙しい在宅ワーカーでも続けやすいセルフケアをお伝えします。難治性の不調を専門とする当院(アンリミテッドヒール京都)の考え方も交えながら、根本からアプローチするヒントをご紹介します。
テレワーカーに多い体の不調——あなたの症状はどのタイプ?
テレワーク導入後に感じやすい体の不調には、大きく3つのパターンがあります。まず「じわじわ型」は、仕事中はなんとか動けるが、夕方から夜にかけて腰の重だるさや肩の張りが強くなるタイプ。次に「朝から痛み型」は、目覚めた直後から腰や首がこわばっており、動き始めて少し経つと楽になる。これは睡眠中に筋膜が固まりやすい状態にあるサインです。そして「集中するほど悪化型」は、オンライン会議や資料作成に熱中するにつれ、肩や首が岩のように硬くなる。気づいたら2〜3時間も同じ体勢だった、という経験は多くの人に心当たりがあるでしょう。
これらの症状に共通するのは、「体を動かすタイミングを環境が教えてくれなくなった」という点です。オフィスなら同僚に声をかけられ立ち上がる、コピー機まで歩く、昼休みに外食するなど、知らずしらずのうちに体を動かしていました。在宅では、そうした「強制リセット」がなくなります。さらに、自宅の机や椅子は仕事用に設計されていないことが多く、体への負担が重なります。不調が「慢性化」しやすいのは、こうした複数の要因が重なるからです。
テレワーク後に起きやすい不調のパターン
じわじわ型
午前は動けるが
夕方〜夜に
腰・肩が重くなる
筋膜の疲労蓄積
長時間座位が原因
朝から痛み型
起き抜けから
腰・首がこわばる
動くと少し楽
睡眠中に筋膜が
硬化しやすい状態
集中するほど悪化型
会議・資料作成中
肩・首が硬直
気づくと2〜3時間
環境による動き出し
のきっかけが消えた
図1:テレワーク後に起きやすい不調のパターンと主な背景
テレワーク環境と体の関係——オフィスと何が違うのか
オフィスと自宅の大きな違いのひとつは「作業環境の設計」です。職場の机・椅子・モニターは、長時間作業を前提にある程度の人間工学的基準を満たして選ばれていることが多い。ところが自宅では、ダイニングテーブルにノートPCを置いて作業するケースが少なくありません。ダイニングチェアは食事の短時間使用を想定しており、腰のサポートが十分ではないことがほとんどです。また、ノートPCを直接見下ろす姿勢はモニターが低すぎるため、首が慢性的に前傾し、首・肩への負荷が増え続けます。
次に「移動量の激減」があります。オフィスでは、通勤・社内移動・近隣でのランチなど、仕事に付随して1日数千歩歩くことが当たり前でした。テレワークでは朝起きてすぐPCを開き、退勤後もリビングで終わる——という「ゼロ移動の日」が生まれます。出町柳周辺で自転車通学・通勤されていた方が在宅に切り替えると、この変化を実感しやすいでしょう。身体活動量が激減すると、筋膜(筋肉を包む結合組織)の滑走性が低下し、痛みや張りが出やすくなります。さらに、仕事とプライベートの境界が曖昧になることで、交感神経が高ぶった状態が続きやすく、筋肉の緊張が抜けにくくなります。
オフィス vs 在宅:作業環境の比較
オフィス
✔ 高さ調節できる机・椅子
✔ 外付けモニターで視線が水平
✔ 通勤・社内移動で歩行あり
✔ 同僚との会話でリセット
✔ オンオフの切り替えが明確
→ 知らずに体を動かす機会が多い
在宅
✗ ダイニングチェア・ソファ
✗ ノートPC直視で首が前傾
✗ 1日の歩数が数百歩に
✗ 孤立・集中で緊張が抜けない
✗ 仕事とプライベートが混在
→ 体を動かす「きっかけ」がない
図2:オフィスと在宅の作業環境の主な違い
原因は「姿勢」だけではない——4つのリスク因子
テレワークによる腰痛・肩こりの原因を「姿勢が悪いから」と単純化してしまうと、対策が的外れになりがちです。実際には、次の4つのリスク因子が複合的に重なっています。
①エルゴノミクス(人間工学)の不備 :机・椅子・PC配置が体に合っていない状態で長時間作業すると、特定の筋肉・筋膜が継続的に引き伸ばされたり圧迫されたりします。首の前傾が続くと、後頸部の筋膜が慢性的に伸張ストレスを受け、こりや頭痛の原因になります。腰椎のサポートが不十分な椅子では、腰椎前弯が減少し、椎間板への負担が増大します。
②身体活動量の激減 :人間の体は「動くこと」で筋膜が潤滑され、血流が維持されるようにできています。テレワークで通勤がなくなり、一日の歩数が極端に減ると、全身の筋膜が硬化しやすくなります。これは「使わない筋肉は衰える」という廃用性の問題と、「動かないと筋膜の水分が失われる」という機能的問題の両方です。
③心理的ストレス・孤立感 :在宅勤務では、職場での自然な対話が減り、孤立感や評価への不安が高まることがあります。こうした心理的ストレスは交感神経を慢性的に刺激し、筋肉の緊張(特に首・肩・腰まわり)を高めます。「痛みの神経科学」では、脳の痛みゲートがストレスで開きやすくなることが知られており、心と体は切り離して考えられません。
④生活リズムの崩れ :通勤という毎朝の「スイッチ」がなくなると、起床時間や食事のリズムが乱れやすくなります。睡眠の質が下がると、夜間の組織修復が十分に行われず、日中の疲労が蓄積します。また、光を浴びる時間が減ることで概日リズムが乱れ、自律神経のバランスにも影響を与えます。
テレワーク腰痛・肩こりの4つのリスク因子
1
エルゴノミクスの不備
机・椅子・PC配置が体に合わず
筋膜に継続的ストレス
2
身体活動量の激減
通勤ゼロで筋膜が硬化
血流・滑走性の低下
3
心理的ストレス・孤立感
交感神経の慢性的亢進
筋緊張・痛みゲート開放
4
生活リズムの崩れ
睡眠の質低下・自律神経乱れ
組織修復の不全
図3:テレワークで腰痛・肩こりが悪化する4つのリスク因子
研究でわかっていること——データが示すテレワークの体への影響
テレワークと筋骨格系障害(腰痛・肩こりなど)の関係は、近年多くの研究で検証されています。Fadel ら(2023)が205本の先行研究から25本を精査したシステマティックレビューでは、テレワーカーに最も多く報告される筋骨格系障害は腰部と頸部の痛みであることが確認されました。同レビューは、エルゴノミクス的要因と組織的要因が症状の発生・悪化に関与していると結論づけています [1] 。
また、Gomez ら(2022)のラピッドレビューでは、新型コロナウイルス流行期に在宅勤務を行った人を対象にした6つの観察研究を分析。その結果、首の痛みの有症率は20.3〜76.9%、腰部の痛みは19.5〜74.1%、肩の痛みは3.0〜72.9%と、非常に高い割合で筋骨格系の痛みが報告されていました [2] 。これらの数字は「テレワークが体に何もしない」わけではないことを示しています。
研究から浮かび上がる共通のリスクは、①長時間の座位(特に非中立姿勢での座位)、②作業ステーションのエルゴノミクス不良、③心理的ストレスの増大、④身体活動量の減少の4点です。注目すべきは、この4点が本記事でご紹介した「4つのリスク因子」と完全に重なっていることです。特定の「悪い姿勢」というよりも、複数の要因が組み合わさって体への負担が蓄積されるというモデルが、現在の研究では支持されています。
さらに、テレワーカーと非テレワーカーを比較した研究では、在宅勤務者ほど頸部痛・腰部痛のリスクが有意に高い傾向が確認されています。ただし、週に数日のハイブリッド勤務よりも、フルリモートのほうが症状の訴えが強い傾向もあり、「家にいる時間の長さ」と「身体活動量の絶対値」が重要な変数と考えられています。
テレワーカーの筋骨格系障害有症率(研究データ)
出典:Gomez et al., 2022(PMC9731643)ラピッドレビューより
首の痛み
腰の痛み
肩の痛み
0%
25%
50%
75%
100%
最低20.3%
最高76.9%
最低19.5%
最高74.1%
最低3.0%
最高72.9%
図4:テレワーカーに報告された筋骨格系障害の有症率(複数研究の範囲)
なぜ繰り返す・戻るのか——テレワーク不調の悪循環
テレワークによる腰痛・肩こりが「一時的に楽になってもまた戻る」という訴えは非常によく聞かれます。これには、症状を繰り返させる悪循環のしくみが関係しています。
まず、体が痛いと「動くのがつらい」という気持ちが生まれ、意識せずに活動量をさらに減らします。すると筋膜の硬化が進み、血流が悪くなり、より痛みが出やすい状態になります(痛み→不動→筋膜硬化→痛み)。
次に、痛みのせいで仕事の効率が下がると、作業が終わらず深夜まで続けざるを得なくなります。睡眠時間の圧迫→疲労の蓄積→翌朝の体のこわばりという流れです。また、仕事効率の低下はオンライン会議での緊張感や評価への不安につながり、心理的ストレスが交感神経を刺激し続けます。交感神経が優位な状態では、筋肉の弛緩が起きにくく、痛みも感じやすくなります(中枢感作の低閾値化)。
さらに、「マッサージや整体を受けたら一時的に楽になったが、また元に戻った」という経験を持つ人も多いでしょう。これは、施術で筋膜の緊張が緩んでも、テレワーク環境そのものが変わっていなければ、同じ刺激が毎日続いて再び硬くなるためです。施術で「結果」を出すだけでなく、環境と生活習慣という「原因」にアプローチすることが、繰り返しを防ぐために不可欠です。痛みが固定化されないうちに、この悪循環を断ち切ることが大切です。
テレワーク不調の悪循環
腰・肩・首の痛み
テレワーク継続
活動量の低下
筋膜硬化・血流低下
睡眠の質低下
疲労蓄積・修復不全
心理的ストレス
交感神経亢進・筋緊張
図5:テレワーク不調が繰り返される悪循環のしくみ
自宅でできるセルフケア——3ステップで悪循環を断ち切る
テレワークによる体の不調に対して、自宅でできるセルフケアを3つのステップにまとめました。毎日完璧にこなさなくてよいので、まずは1つから試してみてください。
STEP 1:30分に1回の「1分動き出し」を設定する
タイマーやPC画面の通知を使って、30分に1回必ず立ち上がる習慣をつけましょう。立って10歩歩くだけでも構いません。目的は「完全な休憩」ではなく「筋膜の滑走性を保つ」ことです。京大や同志社の研究室で長時間座る方も、タイマーをセットするだけで首・腰の張りが大幅に変わったという例があります。可能なら窓を開けて外の光を浴びることで、体内時計のリセットにもなります。
STEP 2:画面終了後の「姿勢リセット体操」(2〜3分)
仕事終わりに次の3つを行います。①「胸開き」:両手を後頭部で組み、天井を見ながら胸を開くように背中を反らせる(10秒×2回)。②「腰のロール」:椅子に座ったまま骨盤を前後に10回ゆっくり傾ける。③「肩甲骨引き寄せ」:両肘を背中側に引いて肩甲骨を10秒寄せ、ふわっと戻す(5回)。これらは筋膜の緊張を和らげるとともに、交感神経優位の状態から副交感神経優位への切り替えを促します。
STEP 3:入浴後の「筋膜ほぐし」(5分)
入浴後、筋温が上がっているタイミングが筋膜のほぐしに最適です。テニスボールや市販のマッサージボールを使って、お尻(梨状筋)・脇の下(広背筋)・肩甲骨の内側(菱形筋)を各30〜60秒ゆっくり圧迫します。「イタ気持ちいい」程度の圧で、深呼吸しながら行いましょう。痛みが増す・しびれが出る場合はすぐ中止してください。
セルフケアのポイント :「毎日完璧に」より「少しでも毎日続ける」が大切。まずSTEP 1のタイマー設定だけでも取り入れてみましょう。
テレワーク不調の3ステップセルフケア
1
30分に1回
1分動き出し
タイマー設定で
筋膜の滑走性を
保つ
光を浴びると◎
▶
2
仕事終わり
姿勢リセット体操
胸開き・腰ロール
肩甲骨引き寄せ
2〜3分でOK
副交感神経に切替
▶
3
入浴後
筋膜ほぐし5分
ボールでお尻・
脇・肩甲骨を
30〜60秒圧迫
体温が高い今が最適
図6:テレワーク不調に対する3ステップのセルフケア
こんなときは医療機関へ——見逃してはいけないサイン
テレワークによる腰痛・肩こりの多くは、環境改善とセルフケアで経過をみることができます。ただし、次のような症状がある場合は早めに整形外科や神経内科などを受診してください。
安静にしていても痛みが変わらない・夜間も痛む :骨や内臓由来の病気のサインとなることがあります。
足・腕・手にしびれや力の入りにくさが出てきた :神経の圧迫や障害が疑われます。早めに受診を。
排尿・排便の変化(尿漏れ、残尿感、便秘の突然の悪化)を伴う腰痛 :馬尾症候群など緊急性のある状態のサインです。すぐに受診してください。
発熱・体重の著しい減少を伴う痛み :感染や腫瘍を否定する必要があります。
転倒・事故の後から急に痛みが始まった :骨折の可能性があります。
痛みが腰だけでなく脚全体・腕全体に放散し、しだいに広がっている :中枢神経の問題を排除するため画像検査が必要な場合があります。
3〜4週間セルフケアを続けても改善がまったくない :専門家の評価を受けることをおすすめします。
「忙しくて病院に行けない」という方も多いですが、放置すると症状が固定化するリスクがあります。テレワーク中でもオンライン診療を利用できる医療機関が増えているので、まずはかかりつけ医に相談するところから始めてみてください。
それでも変わらないときは——アンリミテッドヒール京都の考え方
セルフケアを続けても「腰や肩の痛みが慢性化している」「整体を受けてもすぐ戻る」という状況が続く場合、症状の背景にある「体のパターン」を個別に評価することが有効です。
出町柳駅から徒歩1分にあるアンリミテッドヒール京都 (院長:日下部望・理学療法士)では、テレワーク由来の腰痛・肩こりについても、筋膜の硬化パターン・自律神経の状態・日常動作の癖などを丁寧に評価しています。「どこが痛いか」という症状だけでなく「なぜそのパターンが繰り返されるか」という原因に目を向け、再発しにくい状態を目指した施術を行っています。
京都大学や同志社大学の近辺で研究・勉強を続けるデスクワーカーや、在宅でWeb制作・デザイン・ライティングを続けるフリーランスの方からも多くご相談いただいています。「薬や湿布でごまかしてきたが、根本的に変えたい」「繰り返す肩こりをどうにかしたい」という方は、一度ご相談ください。施術内容・考え方については院のホームページでもご確認いただけます。効果には個人差があり、すべての症状に対応できるわけではありませんが、まずは現状のパターンを整理するお手伝いができます。
まとめ
テレワーク(在宅勤務)は便利な働き方である一方、体への影響が「見えにくい形」で蓄積しやすい環境です。この記事でお伝えしたポイントをまとめます。
テレワーク腰痛・肩こりの原因は「姿勢が悪いから」だけではない :エルゴノミクス不備・身体活動量の激減・心理的ストレス・生活リズムの崩れ、という4つのリスク因子が重なって不調が起きます。
研究が示す有症率は非常に高い :在宅勤務者の首の痛みは最大76.9%、腰の痛みは最大74.1%という報告があります。自分だけではなく「在宅ワーカーに起きやすい不調」として客観的に捉えることが、対策の第一歩です。
まず「30分に1回の動き出し」から始める :完璧なエルゴノミクス環境の構築より、タイマーを使って定期的に立ち上がる習慣の方が、継続しやすく効果を実感しやすいです。仕事終わりの姿勢リセット・入浴後の筋膜ほぐしを加えた3ステップが、悪循環を断ち切る鍵になります。
痛みが慢性化する前に、今日からできることを一つ試してみましょう。ご不明な点や、なかなか改善しない症状がある場合は、専門家への相談も選択肢のひとつです。
参考文献
Fadel M, Bodin J, Cros F, Descatha A, Roquelaure Y. Teleworking and Musculoskeletal Disorders: A Systematic Review. Int J Environ Res Public Health. 2023;20(6):4973. doi:10.3390/ijerph20064973. PMC10049341.
Gomez IN, Suarez CG, Sosa KE, Tapang ML. Work from home-related musculoskeletal pain during the COVID-19 pandemic: A rapid review. Int J Osteopath Med. 2023;47:100655. PMCID: PMC9731643. PMID: 36514321.
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療を目的としたものではありません。効果には個人差があり、特定の治療法の効果を保証するものではありません。症状が続く・悪化する場合は医療機関にご相談ください。